何もしてないのに壊れた

たぶん、何かしてる

「遅刻したらタトゥー入れます」

よく時間に遅れる女性がいた。

 

遅刻の理由というのは基本的に「寝坊」か「公共交通機関の乱れ」が多い。

この女性も「寝坊」が多かったが「バスを乗り過ごした」事もあった。

「バスを乗り過ごしたって何してたの?」って聞いてみると、

「バスの外に見えるネコを数えてました」って、おっちょこちょいが過ぎる。

 

今日も遅刻してきたのだが理由は寝坊だった。

「携帯でアラームを掛けていたけど充電が切れてた」というのが原因だ。

僕は不思議に思った。寝てる時ってそんなにバッテリー消耗するの?

YouTubeでも流したまま寝てるの?」って聞いてみると

YouTubeではないんですけど英語聴きながら寝てるんですよ。すぐ眠れるのでお薦めです。」

ヒーリングミュージックかと思ったら洋楽でも聴いてるのかな。まあ、そのせいで充電切れてるんだけど。

タイマーセットして時間が経ったら電源切れるようにしておいたら?って言うとタイマーセットするのを忘れるという。家に帰ったらまず充電するようにしたらって言っても充電するのを忘れるっていう。

「こだまでしょうか、いいえ、誰でも」のCMみたいなやりとりみたいになってしまったが結局タイマーもアラームも充電するのも忘れるってそれもう掟上今日子かなって。備忘録つけるしかない。

 

僕の職場では何かミスをすると報告書を提出する決まりがある。ミスをした本人と上司が一緒に対策を考えるのだ。この対策は精神論的な小難しいものより現実的な方が良い。この女性の過去の報告書を見てて思い出したが、前回遅刻した時に「目覚まし時計を買う」っていうのがあった。その時はアラームが鳴らなかったみたいな事を言ってたので携帯だけではなく目覚まし時計もセットしようという話をしたのだ。

 

僕は「今日、目覚まし時計は鳴らなかったの?」と聞いた。

 

「目覚まし時計買うの忘れてました」

 

これもう名人芸と言っていい。僕も質問した時にちょっと期待してた、この返答。

そうは言っても前回遅刻した時には長めに時間を取って説教してた。

「社会人とは」とか「遅刻をすると他の人との信頼関係がー」とか。

 

こんなに響かないものかな、心。

響かなさで言ったらUNIQLOのシームレスショーツにも負けてない。アウターに全然響かない。

 

前に面談した時の話ちゃんと聞いてた?って言うと

「途中から早口になってよく分からなかったです」

どうしてその時に聞き返さなかったの?って言うと

「聞き流してもあとで思い出せるかなって。私、スピードラーニングやってるんで」

 

寝る前に聴いてるの洋楽じゃなかった、スピードラーニングだった。

スピードラーニングって睡眠学習とは違うと思うんですけど。

 

あとどさくさに紛れて僕の話聞き流してた事もカミングアウトしてきた。

おっちょこちょいがここでも出てる。

 

とりあえず報告書には「寝る時にはスピードラーニングしない」と「忘れないようにメモを取る」って書いておいた。この女性の報告書、寝る前にYouTubeを見ないとかバスに乗る時は外のネコを数えないとかばかりで、訴えられるのが怖くて注意書きが多いアメリカみたいになってる。

 

メモを取るって事で話は終わったんだけど、この女性手にメモするんだよね。

メモ帳は?って聞くと「メモ帳に書いても見返すのを忘れるので手の方がいいです」って。

手を洗ったら消えちゃうよって言うと、

 

「じゃあ、タトゥー入れます。もうこれしか無いです」

 

タトゥー入れるしか選択肢が無い状況ある?

それとも僕が知らないだけで「ちょっと時間空いたからタトゥー入れてこよー」って時代になってるの?お店にいきなり行って「大将、今日やってる?」ってシステムなの?のれんに「タ」「ト」「ゥ」「ー」って書いてあったら「外ゥー」って見間違えない?

 

まだ恋人の名前を彫るっていうなら分かるけどメモって取る事たくさんあるから耳なし芳一みたいになるよ。その度にタトゥーショップに行くの?だったらタトゥーショップの店主と僕がiCloudで同期しておいた方が早くない?あと、頑張って「恋人の名前彫るならまだ分かる」ってスタンス取ってみたけど、本当は全く分からないからね。好きって気持ちが強くなるとタトゥー入れたくなるって恋愛偏差値低過ぎるから。「りぼん」とか「ちゃお」とかちゃんと読んできた?もっとaikoとか西野カナ聴いて勉強してー。って熱弁してるけどちゃんと聞いてる?

「ちょっと早口で何言ってるか聞き取れなかったです」

じゃあスピードラーニングの効果出てないよ。

 

タトゥーは消えないし目に付きやすいからメモとしては良いかもしれないけどちょっとって言うと

「何言ってるんですか。ヘナタトゥーなんですぐ消えますよ」

じゃあボールペンで良くない?

バレンタイン、義理チョコやめるってよ

職場の同僚が話していた。それを聞いた僕は衝撃を隠しきれなかった。

 

もちろんGODIVAのニュースは知っていた。「義理チョコをやめよう」という内容だった。

去年までは「友チョコ」だの「逆チョコ」だのしまいには「自分チョコ」とか言い出す始末だったにも関わらずだ。ただ、それを見ていた僕はこのチョコレート文化は終焉が近いなと思っていた。もうこれ以上広げようが無いからだ。格闘マンガで「強さ」がインフレしてる状態に似ていた。急に新キャラ出したり強さを数値化し始めるとだいたい打ち切りになるよね。そもそも良く考えてみると「自分チョコ」に至っては自分で買って自分で食べてるだけだからね。消費行動でしかない。ただ、こんなに早く終わるとは思ってもみなかったのでそんな大事な話を桐島が部活辞めるってくらいのテンションで言わないでほしいものだ。

 

同僚は「義理チョコ」がなくなるとか思ってもみなかったなと言っていた。

しかし僕が驚いているのは

「今まで1個もチョコ貰ったこと無かったんだけど去年までは義理チョコやってたの?」

という事だった。

 

うちの会社はいわゆる「外資系」である。御中元や御歳暮、年賀状といった類の物が一切無い。バレンタインに関しては「好きな人にチョコあげるのは日本だけ」って話を聞いた時に、うちは外資系だからバレンタインも無いんだと思ってた。職場以外で出会う人には、「うちは外資系なのでそういうバレンタインとかやらないんですよ」って言ってた。外資系って言葉、便利だなと思っていた。しかし現実は他の人達は貰っていたのだ。「僕だけがいない街」ってこういう話だっけ?まだ見た事ないけど多分合ってると思う。

 

女性社員にどうしてチョコをくれなかったのか聞いてみると「いつもチョコとか甘いもの食べてるから大丈夫かなって思ってました。」って言われた。ちょっと待ってほしいんだけど普通はいつもチョコ食べてるからチョコ好きなんだろうな。じゃあバレンタインにチョコあげようってなるよね?この「大丈夫」は何をもって大丈夫としちゃったの?苦手だったのかな、国語。言葉の意味とか理解出来てないし登場人物の気持ちを読み取る描写とかヒントいっぱいあったよ。もっと作者の気持ち考えてー。あと道徳の授業もお願いしたい。

 

確かに僕は常日頃からチョコを食べている。無類の甘党だ。チョコレートももちろん大好きなのでコンビニやデパートで新商品が出たら必ず買うようにしているくらいだ。

バレンタインが近づいてくるとどこのメーカーも本気を出してチョコレートの新作を出してくる。どれもいつも食べているチョコレートより魅力的だ。コンビニには特別コーナーが設けられデパートではワンフロア全てチョコレート売場なんてのも珍しくない。

まあ1つ言えるのは男性は買いにくいよね。

コンビニはレジ前にコーナーがある事が多くて店員の目が気になる。デパートに至ってはそのフロアで降りる事さえ許されない圧力がある。女性専用車両かなってレベル。ここに入る勇気はあいにく持ち合わせていない。それでもチョコを食べたい僕はSNSにSOSを出すしかできない。救助は来ないけど。

 

義理チョコが無くなったらOLは楽になるだろう。チョコレート買うだけでも疲弊するだろうし、全く興味の無いおっさんにチョコを渡すなんてマジ無理なんですけどって感じでしかない。でも本命チョコを渡す勇気が無い女子中高生には必要なんじゃないかな。本当は本命なんだけど素直になれなくて

「義理チョコなんだから勘違いしないでよねっ」

ていうのがなくなっちゃうのかな。ハッシュタグにBFFって付けて必要以上に友達アピールしておく。

ちなみにBFFってベストフレンドフォーエバーって意味らしいんだけど新しい仮想通貨かと思ってた。

 

最初のきっかけが大事なんだよね。義理チョコを渡す事によって関係が始まるっていうか。お互いが意識し始めて。長い時間を掛けて少しずつひとつひとつの信頼を重ねていってゴールに向かって行くっていうね。そのキッカケとして義理チョコがあっても良いかなとも思う。

そんな話を隣で聞いていた女性が

「その話、超分かります。ディアゴスティーニも創刊号は安いですもんね」

って言ってたけど多分1ミリも分かってない。

 

でも義理チョコが無くなったらホワイトデーはどうなるのかなって。そもそも3倍返しって普通に言ってるけど異常だからね。ドラッグストアのポイントじゃないんだから。半沢直樹があれだけ怒り狂っても「倍返し」がいいとこ。それを3倍だー、給料3ヵ月分だーだの言いたい放題。まあチョコ1個も貰ってないのでゼロに何掛けてもゼロですから。心配もゼロだった。

 

バレンタインの義理チョコは無くなりますがホワイトデーはいつも通りでお願いしますって。

こんな強欲なわらしべ長者見たことない。ゼロから1を創り出すってそれもう神の領域だから。

せめてわらしべ(義理チョコ)持ってきて。

 

「誰にも言ってないんですけど、実は私ジャニオタなんです」

新しく入ったアルバイトの女性にカミングアウトされた。それは本当に不意の出来事だった。

とりとめのない、何の生産性もない日常会話をしていたはずだった。社交辞令の入り混じる当たり障りのない会話。からの急展開。寝耳に水って本当に言い得て妙だと思う。寝てる時に耳に水を入れられたらこんな顔するよねって顔してたと思う。

ていうか寝てる時に耳に水を入れるってどんだけーと僕の心の中のIKKOが顔を出しかけたが、ことわざの語源を調べてみたら全然違ってた。川の氾濫がどうとかだった。ドSなオラオラ系王子様が「主人公の平凡な女の子」が寝てる時に耳に水を入れたのがことわざになったのかと期待したけど違った。こういうタイプのオラオラ系王子様が恋に落ちる時、だいたい「お前、ホントおもしれー女」っていうのマジトキメキの高まりがやばい。中臣鎌足くらいやばい。

 

僕は「『KAT-TUN』の亀梨くんカッコいいよね。」と返事をした。

ジャニーズに一切関わらずに生きてきた30代男性の限界が見えた瞬間だった。かろうじて「嵐」を出さなかった事でちょっと分かってる感じを出したかったのだが考えが甘かった。そう、相手はジャニオタだ。

「発音が甘いです。『カツーン』じゃなくて『カトゥーン』です」と返された。

今まで色々な叱責を受けてきたが「発音が甘い」って言われたのは中学校の英語の授業の時以来25年ぶり2度目。高校野球だったら古豪復活で話題になるレベル。

 

上司という立場上、プライベートな相談を受ける事もある。仕事上、どうしても知っていなければならない事もあるからだ。もちろん女性の上司もいるのでその人にも相談出来る。そんな中この女性は僕だけに話してくれたのだ。

 

僕は歓喜した。この「僕だけに」という特別感。あれっ、さっきくれた飴ってヴェルタースオリジナルだっけって確認したけど南天のど飴だった。「どうして僕だけに話してくれたの?」と思わず聞いてみた。「こういう気持ち分かってくれるかなって思って。2人だけの秘密ですよ。」と言われた。

 

脳内で木村カエラの歌声が聴こえた。あっ、これバタフライだ。誰かゼクシィ買ってきてー。

 

「アイドルとかすごい好きそうだから共感してもらえるかなと思って。私はジャニーズオタクですけど多分アイドルオタクですよね?」

アイドルが好きそうとかパソコンが得意そうって言うのもうやめて。確かにチェックのシャツ着てるしリュック背負ってるけど。見た目の情報分析がすごい。

 

一喜一憂って言葉こんなに当てはまることある?仮想通貨のチャートかなってくらい感情の起伏がすごい。その様子を見てた女性が、

「ホントおもしろいですねー」って言った。

 

これ、フラグ立ってる?僕はフロッグみたいな顔してるけどワンチャンあるかな。

フロックでいいから狙ってみるか。LINEブロックされてブログに書くのが落ちだけど。

 

 

 

LINEの「送信取消」機能が追加されると1つ恋愛テクニックが使えなくなる

「恋愛の話だったら何でも聞いてね」と言っている女性がいた。彼女が言うには恋愛は駆け引きが重要らしい。押したり引いたりギャップを見せたりしながら駆け引きを楽しむのだという。

周りの女性達は彼女の話を「その話、超分かるー」と相槌を打ちながら聞いていた。時折質問をしたり、食い気味に返事をしたり、立ち上がって拍手をしたりしながら聞いていた。日常でスタンディングオベーション起きる事ある?ってくらい盛り上がっていた。しかしぼくは彼女の話が全く分からなかった。女性経験が少ないからだ。

LINEが送られてきてもすぐに返信せずに相手を焦らすのがテクニックだと言われてもぼくは即既読をつけるし即返信する。既読無視も未読無視もした事がない。LINEの相手、大事なクライアントなの?ってくらいの速度で返事をしている。

最近、LINEの「送信取消」機能が追加されて話題になっている。送信相手を間違えるいわゆる「誤爆」を取り消せるというのだ。しかしぼくは送信する前に誤字脱字がないか「校閲職人の方ですか?」ってくらいチェックする。パソコンでも同じで画面の字を指でなぞりながらチェックしていると同僚の女性から「その動き気持ち悪いですね。」と言われた。さすがに頭にきたので「何が?」と言い返すと「誤解を招いてしまってすいません。校閲する作業が気持ち悪い訳ではないです。」と謝罪された。素直に謝罪されたので気を良くしていたが良く考えるとこれぼくが気持ち悪い事に変わりはないよね?誤解は解けたのかもしれないけどこの女性との仲が雪解けしてないんですけど。あと、送信取消機能よりもむしろ好きな人とのLINEのやりとりを見返しながら1人で思いを馳せている時にその人からLINEがきて即既読が付くのを何とかしてほしい。相手からしたら「何でこの人今LINE見てたの?」という恐怖でしかない。

 

彼女が言うにはこの「送信取消機能」が追加されると、「間違えたフリ」をして友人に送るはずのLINEを好きな人に送信するというテクニックが使えなくなるという。本当に「誤爆」だったら消せばいいだけの話になるからだ。消すことができるのは24時間以内という事らしいので既読が付いたのを確認してから消せば良いかとか新たなテクニックを考えている女性を見て、この女性は小学生の頃、友達の女の子が告白するって時にその子の後ろにいて、もし男子が告白を断ったら「ちょっとあんた何で断るのよ。この子がどんな気持ちで告白したと思ってるの?」とかいう女子だっただろうに違いないと思った。恋愛マスターは1日にしてならずである。

 

ぼくは彼女のテクニックが古いように感じた。LINEの送信取消という最新の機能を使っているにも関わらずだ。少女漫画の見過ぎというか今時爽子だって風早くんにもっと素直に気持ちを伝えてる。ぼくが初めて爽子を見た時は人と話すこともままならず「貞子」なんて呼ばれてたのに最終回では風早くんに「・・・帰りたくない」なんて抱きついてた。これ以上君に届けたい言葉なんてたぶんウォーリーより見つかんない。爽子は成長してるのにこの女性は全然成長してない。コナン君くらい成長してない。

 

「でも1番大事なのはサプライズ」と女性は言った。ぼくはこれも苦手だ。何をすれば女性が喜ぶのか皆目検討もつかない。プレゼントにしても相手の趣味に合わなかったら使ってもらえないので確実に相手が欲しい物を聞き出してから購入する。なのでサプライズ感はゼロだ。その話をすると「そんなんだから女性経験がゼロなんですよ」と言われた。ちょっと待って、女性経験ゼロではないから。ただ限りなくゼロに近いっていうかなんていうか例えて言えば麦芽の割合を可能な限り少なくして第3のビールを作り出した企業努力っていうかゼロに近い方が良いこともあるっていうか・・・。ぼくが早口で言い訳していると「そんな事ばかり言ってるから誰からも相手にされないんですよ」と言われた。ちょっとサプライズ強すぎない?今の発言ぼくが既読つける前に取り消して。

休日って何かしてなきゃダメなの?

「お休みの日はいつも何されてるんですか?」

 

職場の休憩所で偶然一緒になった女性社員に言われた。この女性とは「仕事で時々話すくらいの関係」なのでプライベートでの関わりは皆無だ。さて、何を話したものかと模索していると、女性の方から話しかけてきてくれた。僕は大変申し訳なく思った。何か話をしなければと思いこの質問を絞り出したかと思うと胸が痛んだ。一切興味が無いであろう「僕が休日に何をしているか」を聞くしかないという、反抗期の娘を持つ父親が共通する話題がないので仕方なく「学校は楽しいか?」と言うのと同じやつだ。ユーチューバーの話をされてもヒカキンしか手持ちがない。

 

 「特に何もしてないですよ」

僕はこの手の質問が苦手だ。何故なら休日は本当に何もしていないからだ。予定を入れてしまうと時間に縛られてしまうのがたまらなく嫌なのである。好きな時に好きな場所に行く。予約を取っても時間が迫るにつれて行きたくなくなるので美容院とか病院へ行くのも予約を取らない。「今日は予約がいっぱいで…」と言われたら待っている。結局時間に縛られる事に変わりはないのだが。それ以外はただぼーっとして身体を休めていたい。テレビやネットを見なくもないが何を見てるんですかと聞かれて、「世界の車窓から」って答えて「モロッコ鉄道の旅は神回ですよね」とか言ってくれる人はまずいないし。

 

「お休みの日も何もされてないんですか。趣味とか持った方が良いですよ。」

女性は優しく笑みを浮かべながらも少し呆れた様子で、そう、子どもを諭すかのように口にした。食べ終えた食器を器用に片付け、ふっと去る女性を尻目に僕は「趣味はフットサルとか…」と言い掛けて言葉を飲み込んだ。この「何度やっても上手く出来ないやりとり」を思い返して後悔していた。せっかく気を遣って話しかけてくれた女性に対し失望させてしまったかな。でも「お休みの日も何もされてない」って事は仕事の時も何もしてないって思っていたのかな。ダルビッシュが投げてんの?ってくらいスライダー(悪口)にキレがあった。

趣味を持った方が良いと言われたのは初めてではない。その度に人に言える趣味を考えているがなかなか見つからないのだ。おしゃれな趣味としてよくフットサルが挙げられるが僕はスポーツ全般に向いてない。高校時代は弱小バスケ部に所属していたが体力のないシューターや、家から近いという理由だけで入ってきた天才もいなかった。そもそも部活に入る気も無かったのだが「後でやっててよかったと思える日がくる」と説得されてやっていたがその日はまだきていない。公文式の方がそう思えたものだ。

 

英会話なら仕事にも繋がると勧められて習っていた時期もあった。

しかしコミュニケーション能力の低い僕は日本語でもコミュニケーションを取る事が難しいのに、それを英語でとか控えめに言ってそういうタイプの地獄でしかなかった。狭い教室、苦手な講師、伝わらない言葉、進まない時計。縮まらない距離感、埋められない温度差。「腐敗した世界」ってグーグルマップに入力したらたぶんここにピン挿さると思う。

 

まず休日に予定がある人はリア充で予定がない人は暇人みたいな風潮がある。フェイスブックやインスタグラムのせいで余計にそうなっているのだろう。休日もこんなに充実してますよアピールがすごい。「リア充はネットから出てけ」とか「リア充爆発しろ」とか言ってた時代が懐かしいほど、今では充実してる人はリアルでもネットでも充実している。SNSによってみんなが休日に何をしているかがすぐに分かるようになったからこそSNSをやっていない人が何をしているか不思議でしょうがないのだろう。今後はSNSを見ることでその人の価値観や人となりを見ていくことになる。そうなるとSNSをやってない人はもう軽く不審者扱いだ。素性が知れないというのは恐怖でしかないだろう。ではSNSをやったら良いと言われるだろうがこの問題はそんなに簡単ではない。進研ゼミでやったやつじゃないからだ。自分の私生活をインターネットに挙げるというのがどうしても抵抗がある。Twitterでよく「FF外から失礼します」っていうのを見かける。これは「フォロー、フォロワー」でない人の事らしい。つまり知らない人が急に失礼しますって言ってきて困っていたら助けてくれる事もあるってそれどこの花沢類だよって。「F4」なんてアドレスバー開く時以外に使うことないと思ってたよ。

 

かわいいと思った子が阿部サダヲに似ている

いつも同じ角度で写真に写ってる女性がいた。その角度が一番自信があるそうだ。

写真フォルダには見事なまでに同じ角度、同じ表情の写真が並んでいた。インスタにアップする写真を選ぶ為に写真を10枚以上撮るのでスクロールしても同じ写真が出てくる。僕は出来るだけ慎重に、そうプレパラートを割らないようにゆっくりと顕微鏡のネジを回すように、女性に聞いた。

「こんなに無駄なギガの使い方ある?」

 

人は完全な物よりも少し欠点が在るものを好むという。完璧な美人よりも少し天然な女性を好むように。僕が好きなロックバンドにはものすごく美しい女性ボーカルがいる。しかしこの女性はある角度から見ると阿部サダヲに見えるのである。目の錯覚か、もしくはトリックアート。前提として僕は阿部サダヲがかわいいと思った事は一度も無い。例えば合コンがあったとして、女友達に今日どんな子が来るの?って聞いた時に「すごいかわいーよ。ちょっと阿部サダヲに似てるんだ」と言われたらどうだろう。恐らく阿部サダヲの個性的な演技や秀逸なアドリブ芸、さらにはバンド活動にまで至る奇才っぷりに想いを馳せた後、やっぱりかわいくはないという結論に至るだろう。それをかわいいって言うならもう何を聞いても意味ないしカテゴリーの枠が無法地帯だしこの独特の世界観、ここがあの子のアナザースカイって納得するしかない。

 

人の魅力っていうのは時折見せる笑顔だったり少し怒った顔がかわいく見えたりといった感情の表現だと思う。この女性は全部決め顔、そしてドヤ顔。このインスタを見て何を思えば良いのだろう。周りの風景とか美味しそうなコーヒーとかもう関係なくなってる。全部同じ場所に同じ角度の顔。いつもと同じ、いつもの味ってブルーボトルかなってレベル。新鮮味がないことが成功の証。

仕事をする理由ってお金が欲しい以外にあるんですか?

「それなのに志望動機とか色々聞かれても困るんですけど!!」

学生アルバイトの女性は酷く疲弊していた。言いようのない劣等感と焦燥感に駆られ、怒りと諦めにも似た感情が複雑に入り混じった表情で、「もうホントどうしたらいいか分からないです」と嘆いていた。女性よりも少しだけ長く生きてきた僕は今までも就活で苦労している学生を見てきた。勿論、これを言えば内定が貰えるなんて都合の良い言葉は無い。だが、知識や経験則に基づいたとっておきのキラーワードである「サークルで副部長してました」と言うと良いよと伝えたが「そういう使い古されたのはもういいです。ネットでも本でも見ました。今はそういうの要らないです」女性は落胆した。僕のアドバイスは迷惑メールのような扱いを受けた。

 

同じ様なリクルートスーツを身に纏い、同じ様な偏差値の大学生が集められ、何処の企業も同じ様な質問を繰り返す。その中で他者との差別化を図り自分にしか出来ない事をアピールするって難易度高くない?学生時代に打ち込んだ事なんて殆どの女子大生はInstagramとsnowの自撮りだしキャリアプランを教えて下さいって言われても自分の携帯料金のプランすら分かんないし最近気になったニュースとか聞かれても安室ちゃんの引退くらいしか覚えてない。少し趣向を変えた質問で1本100円のジュースを1,000円で売るにはどうしたらいいですかっていうのに「メルカリ」で売りますってそれ「大切に飲むので値下げしてもらえますか?」言われるのが落ちだよと。緊張してたのか「ボランティア行った事ある?」って聞かれてるのによく聞こえなくて「えっ?ホラン千秋は見た事無いです」って答えたって。後で他の就活生に「何で急にホラン千秋の話したんですか?」って聞かれて初めてボランティアの話だったと分かった時の衝撃といったら車だったらエアバッグ出てたと思う。

 

海外のようにモラトリアムの少ない日本では大学を卒業したらすぐに就職しなければならない。大切な「新卒キップ」は1度しか使えないからだ。大学時代に遊ぶことに夢中だった女性はそもそもやりたい事がないという。大企業で働きたいけど何をもって大企業というのか分からないし、とりあえずみんなが知ってる会社は大企業かなと。どういう仕事がしたいとかやってみないと分かる訳ないしでも言われた事はマジでめっちゃ頑張るし、それよりもお昼休みはオシャレなカフェでランチがしたいから渋谷か原宿がいいし。管理職になってバリバリ働くってよりも結婚してかわいいお嫁さんになりたいってよく考えたら幼稚園の頃から言ってる事変わってない。

 

もともと個性的な格好だった女性は就職活動の為に髪の毛を黒く染めていた。みんなから黒髪似合わないって言われてもずっと金髪か派手なカラーしてたから見慣れないだけでしょって笑ってたけどよく考えたらナチュラルに悪口だよね。いつも着ている原宿系の服もリクルートスーツに着替えた。自分を押し殺してまで挑んだ就職活動が上手くいかず「個性」や「自分らしさ」について深く考えるようになると「ありのまま」でいられる会社に行きたいと考えるようになった。多分それ、アナと雪の女王見ただけだと思うけど。面接は私服でお越しくださいって言ってくれる会社を受けるようにした。面接日、最大限に自分らしい服を着て面接会場に向かった。周りがスーツでも関係無いと思った。自分らしく働ける会社を見つけるんだと。受付で係の人に「あれっ!?今日って汚れてもいい服装でって案内出てましたか!?」と聞かれた。やっぱり空気読むのも大事。