何もしてないのに壊れた

たぶん、何かしてる

仕事をする理由ってお金が欲しい以外にあるんですか?

「それなのに志望動機とか色々聞かれても困るんですけど!!」

学生アルバイトの女性は酷く疲弊していた。言いようのない劣等感と焦燥感に駆られ、怒りと諦めにも似た感情が複雑に入り混じった表情で、「もうホントどうしたらいいか分からないです」と嘆いていた。女性よりも少しだけ長く生きてきた僕は今までも就活で苦労している学生を見てきた。勿論、これを言えば内定が貰えるなんて都合の良い言葉は無い。だが、知識や経験則に基づいたとっておきのキラーワードである「サークルで副部長してました」と言うと良いよと伝えたが「そういう使い古されたのはもういいです。ネットでも本でも見ました。今はそういうの要らないです」女性は落胆した。僕のアドバイスは迷惑メールのような扱いを受けた。

 

同じ様なリクルートスーツを身に纏い、同じ様な偏差値の大学生が集められ、何処の企業も同じ様な質問を繰り返す。その中で他者との差別化を図り自分にしか出来ない事をアピールするって難易度高くない?学生時代に打ち込んだ事なんて殆どの女子大生はInstagramとsnowの自撮りだしキャリアプランを教えて下さいって言われても自分の携帯料金のプランすら分かんないし最近気になったニュースとか聞かれても安室ちゃんの引退くらいしか覚えてない。少し趣向を変えた質問で1本100円のジュースを1,000円で売るにはどうしたらいいですかっていうのに「メルカリ」で売りますってそれ「大切に飲むので値下げしてもらえますか?」言われるのが落ちだよと。緊張してたのか「ボランティア行った事ある?」って聞かれてるのによく聞こえなくて「えっ?ホラン千秋は見た事無いです」って答えたって。後で他の就活生に「何で急にホラン千秋の話したんですか?」って聞かれて初めてボランティアの話だったと分かった時の衝撃といったら車だったらエアバッグ出てたと思う。

 

海外のようにモラトリアムの少ない日本では大学を卒業したらすぐに就職しなければならない。大切な「新卒キップ」は1度しか使えないからだ。大学時代に遊ぶことに夢中だった女性はそもそもやりたい事がないという。大企業で働きたいけど何をもって大企業というのか分からないし、とりあえずみんなが知ってる会社は大企業かなと。どういう仕事がしたいとかやってみないと分かる訳ないしでも言われた事はマジでめっちゃ頑張るし、それよりもお昼休みはオシャレなカフェでランチがしたいから渋谷か原宿がいいし。管理職になってバリバリ働くってよりも結婚してかわいいお嫁さんになりたいってよく考えたら幼稚園の頃から言ってる事変わってない。

 

もともと個性的な格好だった女性は就職活動の為に髪の毛を黒く染めていた。みんなから黒髪似合わないって言われてもずっと金髪か派手なカラーしてたから見慣れないだけでしょって笑ってたけどよく考えたらナチュラルに悪口だよね。いつも着ている原宿系の服もリクルートスーツに着替えた。自分を押し殺してまで挑んだ就職活動が上手くいかず「個性」や「自分らしさ」について深く考えるようになると「ありのまま」でいられる会社に行きたいと考えるようになった。多分それ、アナと雪の女王見ただけだと思うけど。面接は私服でお越しくださいって言ってくれる会社を受けるようにした。面接日、最大限に自分らしい服を着て面接会場に向かった。周りがスーツでも関係無いと思った。自分らしく働ける会社を見つけるんだと。受付で係の人に「あれっ!?今日って汚れてもいい服装でって案内出てましたか!?」と聞かれた。やっぱり空気読むのも大事。