何もしてないのに壊れた

たぶん、何かしてる

笑ってはいけない健康診断

久しぶりに会った友人から「元気してた?」って聞かれたら「病気してた」って答えています。基本的に病弱なんですが見た目がもうそんな感じなので「身体が弱いんですよ」と言っても「見れば分かります」って言われる。

 

朝起きたら毎日頭痛。痛む虫歯。上がらない肩。下がらない血糖値。

季節の変わり目ごとに忠実にひく風邪。熱も出るし喉も痛い。鼻にもくるから全色買うことになるベンザブロック。せめて狙いを決めてきてほしいものだ。

 

社会人になって健康診断が強制になった。まあそうでもなければ行かないのでありがたい話だ。健康診断の前日は夜からごはんを食べてはいけないと言われた。その時点で空腹とめまいに襲われそうだ。もはや「健康」診断ではない。

 

健康診断当日、輪をかけて体調が悪いなか病院に向かう。受付を済まし検査着に着替える。先ずは視力検査だ。「メガネを外して下さい」と言われる。

 

僕は普段から伊達メガネを掛けている。何故ならメガネをカッコいいと思っているからだ。視力が良かった僕は小学生の時にメガネを掛けている友人が羨ましかった。メガネを外したり「クイっ」と持ち上げる仕草に憧れた。メガネのレンズを拭く所作は小学生のそれではなかった。大人びて見えた。通学中に「カッコいい剣みたいな木の棒」を探すことしか考えていなかった自分との差に愕然としたものだ。

 

高校生になった時にアルバイトで得た給料で初めて伊達メガネを買った。僕は浮かれていた。メガネケースの蝶つがいが壊れるほどメガネを出し入れし、メガネを掛けていない時も人差し指を鼻の上に持っていってしまう程「クイっ」とした。フレームが歪んでもメガネバンドを付けて掛けていた。スポーツをしていないのにだ。それくらい気に入っていたのだ。しかし、しばらくすると周りの友人達はメガネからコンタクトに変えていた。世論はコンタクトの方がオシャレと言う意見に傾いていた。僕もコンタクトにした。勿論、オシャレだからだ。当時の僕は宝島社が発行している「smart」という男性ファッション誌を読むほどオシャレに敏感だったのだ。しかしここで疑問がわいた。眼が良いのにコンタクトにする意味はあるのかと。

僕はコンタクトを外した。後に、友人から「コンタクトあんまり似合ってなかった」と言われた事もあった。今思えば唯の悪口な気もするがとにかく新しい私はデビューしなかった。それ以来、ずっと伊達メガネを掛けている。結果、視力も悪くなった。

 

言われた通り先ずは裸眼で視力を測る。次に「ではメガネを掛けて下さい」と言われる。伊達メガネを掛ける。変わらない視力。困惑する看護師。伊達メガネだとカミングアウトする。「健康診断に伊達メガネ…」。もっと言えば視力が悪いのに伊達メガネしているという挙動不審。お薬が必要だ。

 

最後にいよいよバリウムだ。最近のは昔に比べてかなり飲みやすくなったらしい。そうは言っても僕は昔のを飲んだことは無いし飲みにくいことに変わりはない。しかもゲップをしてはいけないという。今迄生きてきてゲップをしてはいけないなんて言われたことはない。この時点で笑ってしまいそうになる。それでも何とか飲み干すが笑いが込み上げてくる。口に牛乳を含んでいる感覚だ。笑いのハードルが低くなっている。

 

ベッドみたいものに横たわっているとそのベッドが回転するシステムだ。4Dの映画館みたいにアクロバティックに回転する。自分自身も横向きになったり逆さになったりする。「もう少し下向いて下さい」とか「もっと横向いて」とか指示が細かい。下から診たり横から診たり打ち上げ花火かなってくらいだ。そんなことを考えていたらゲップしてしまった。呆れるレントゲン技師。

「もう一度、時間を戻せたら…」