何もしてないのに壊れた

たぶん、何かしてる

美容院という髪を切る以外で疲弊する魔境

 

美容院が苦手。というか美容師さんが苦手というか。先ず指名制というのがもう無理。ホストクラブもキャバクラも行かない、プロ野球のドラフトにかかる事もない僕にとって唯一の指名制。たくさんいる中から1人を選ぶなんて無理ゲーでしかない。結果ガチャを引くつもりでお願いする事になる。

幸いな事に今まで嫌な事を言ってくる美容師さんに当たった事はない。「髪の毛パッサパサですねー。」とか「キューティクルどこに置いてきたんですかー?」とか言ってくるレアキャラは。みんな明るくて気さくな性格だ。こちらが退屈しないように色々と話し掛けてくれる。でも、なんていうかなー。育ってきた環境が違うからか話が噛み合わない。セロリが好きとか嫌いとかっていうレベルではない。

 

今回髪を切ってくれる美容師さんは「典型的な美容師」だった。「カットとスタイリングには自信があります。」「トークでも楽しませますよ。」「だから私はXperia」みたいな感じだ。

 

「今日はどんな感じにされますかー?」。この「感じ」を伝えるのが苦手なのである。飲食店であればメニューに書いてあるものをそのまま読めばいいのだが美容院ではそうはいかない。自分の言葉で伝えなければならずいつも苦労する。「トップは長めに残してサイドは刈り上げで。襟足はエアリーな感じで毛先を遊ばせちゃってください。」と言えたらどんなに良いだろうか。これはもう呪文である。「私は潤滑油みたいな人間です。」並みに意味が分からない。これを言うにはノートに10回くらい書き込んで10分くらい頭の中で反復して暗記しなければいけない。赤ペンと緑色の下敷きを買ってこなければ。そこまでしても致命的な早口と小声いうダブルコンボが炸裂してしまうだろう。あと、最近言われたのだが滑舌が絶望的らしいのでトリプルだった。ダブルがトリプルになるとかどこのサーティワンかなって。まあ、言えた所でどんな髪型になるか想像もつかないのだが。

 

さて、そんなこんなでカットしてもらうわけだが僕は極度の先端恐怖症で刃物が怖いのだ。よく考えてみてほしい。初対面の人が自分に刃物を向けているという状況。強盗に遭っているのとほとんど同じ。自分が少しでも動いたら耳を切られるんじゃないかという恐怖。緊張が走る。震える身体。凝視するカガミ。噛み合わない会話。切りすぎた前髪。困惑する美容師。全てを悟るぼく。思い出す水戸なつめ。支払うお金。謝罪する大人達。

 

職場には美容院に行く事は伝えてあった。前髪を切りすぎたので恥ずかしそうにしてたら、「大丈夫でしたか?」と後輩の女性に声を掛けられた。「ちょっと切りすぎちゃったよ」と言うと、「そうじゃなくて体調ですよ。病院行ってたんですよね?」「病院じゃなくて美容院だよ」「美容院?病院じゃなくて美容院ですか」。僕の絶望的な滑舌の悪さで「美容院」と「病院」が伝わりにくいらしい。ありがとう、オリゴ糖みたいになってた。後輩も僕の髪型を見て「なんだ、こいつ」って顔してたし。